大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和59年(行ツ)268号 判決 1985年6月18日

宮城県古川市李字明神一三番地

上告人

梅森昭雄

宮城県古川市幸町一丁目二番一号

被上告人

古川税務署長

橋元邦雄

右指定代理人

亀谷和男

右当事者間の仙台高等裁判所昭和五八年(行コ)第一五号国税犯則取締法に基づく告発の手続を為さぬことの不作為の違法確認請求事件について、同裁判所が昭和五九年五月一八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論違憲の主張は、その実質において単なる法令違背の主張にすぎないところ、原判決に法令違反がないことは、右に述べたとおりである。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものにすぎず、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡満彦 裁判官 長島敦)

(昭和五九年(行ツ)第二六八号 上告人 梅森昭雄)

上告人の上告理由

第一点 控訴裁判所は、主権在民を宣言した憲法前文第一段に違反している。

すなわち、法律の規定は可能なかぎり憲法の精神に即しこれと調和しうるよう合理的に解釈されるべきであり、本訴の如き不作為の違法が重大且つ明白な訴であれば「法令に基く申請」については、行政事件訴訟法上の条文にのみとらわるることなく、この訴訟によって護らるべき法的利益換言すれば不作為の違法によって作出された不法状態を排除することによって回復される社会全体の利益を考慮すべきである。

しこうして、本訴に関しては「法令に基く申請」に該当すると解して訴訟の途を開くことが、現代社会の実情に則して法治主義の理念を貫き、且つ行政事件訴訟法の法意に適合するものである。

控訴裁判所が、本件訴えは不適法であり却下すべきであると判断為したことは、主権在民の原理に反する法令を排除するという憲法前文第一段に違反している。

第二点 控訴裁判所は、憲法第十三条に違反している。

すなわち、個人が行政庁に対し法律を誠実に執行することを求める権利は、憲法第十三条の保障する基本的人権に含まれるものである。

本訴の要旨が上告人主張のとおりに相違ないとすれば、被上告人の不作為の違法の是正を求めた上告人の基本的人権を尊重せずに、控訴裁判所が、本件訴えは不適法であり却下すべきであると判断為したことは、憲法第十三条に違反している。

第三点 控訴裁判所は、憲法第十四条に違反している。

すなわち、国税犯則取締法第十二条ノ二に基く告発の手続を為すとか、為さないとかについては、行政庁に裁量権はないことが明らかである。

然るに、上告人提出の甲第各号証のとおり、告発為される者と為されない者があることは、法の下の平等を定めた憲法第十四条一項に違反する。

当該行政庁の違憲の是正を求めた上告人の本件訴えを、控訴裁判所が、不適法であり却下すべきであると判断為したことは、憲法第十四条一項の趣旨に違反している。

第四点 行政事件訴訟法第三条五項は、憲法第三十二条に違反している。

すなわち、憲法第三十二条は、訴訟の当事者が訴訟の目的たる権利関係につき、裁判所の判断を求める法律上の利益を有することを前提として本案の裁判を受ける権利を保障したものであるが、行政事件訴訟法第三条五項は「法令に基く申請」をした者に限り提起することができる旨の原告適格を制限している。

当該制限が、裁判を受ける権利を保障した憲法第三十二条に違反している。

第五点 控訴裁判所の判断は、法令の解釈を誤ったか、若しくは審理不尽、理由不備の違法がある。

すなわち、憲法第七十三条に規定為されているとおり内閣には法律を誠実に執行すべき責務があり、憲法第九十九条に規定為されているとおり公務員には憲法を尊重し擁護し法令に従う義務がある。

本訴の要旨が上告人主張のとおりに相違ないとすれば、被上告人の不作為は法律・慣習・条理ないし健全な社会通念等に照らし客観的に違法であり且つ違憲である。

当該事項を正さずして、控訴裁判所が、本件訴えは不適法であり却下すべきであると判断為したことは、法令の解釈を誤ったか、若しくは審理不尽理由不備の違法がある。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例